0 |
長い長い時間をかけて私は多くの知識を身に付けてきた。
私の知識が力となって、この世界の平和を守っていることを、疑う者はいないだろう。
民は笑顔を絶やすことなく、私を尊敬してくれる。
だが、賢者と呼ばれている私にも、分からないことがある。
人の心の奥深くには、必ず闇が眠っている。
どんな純粋な者の心にも。
たったひとかけらの闇が、ふとしたきっかけで大きく膨らみ−−やがて心の全てを闇に染めてしまった例を、私は何度となく見てきた。
闇。心の闇。
どこから来て、どこへ行くのか。
この小さな世界を治める者の務めとして、どうしても知っておかねばなるまい。
闇にとらわれた者どもが、この世界の平和を乱す前に…。
|
---|
|
1 |
人の心に潜む闇。
その正体を暴かねば。
数種類の実験を行う。
人の心の闇を、取り除く実験。
純粋な心に、闇を発生させる実験。
闇を抑制する実験と、逆に増幅する実験。
ところが、心の領域に手を出した途端、被験者の心はことごとく崩壊してしまった。
強い精神力を持つと思われた者も例外ではない。
心とは、なんともろいものか。
治療を施したものの、彼らは回復する兆しを見せず、完全に心を失った。
そんな痛ましい姿を民に見せるわけにはゆかない。
私は彼らを城の地下に幽閉した。
それからしばらく後、城の地下で奇妙な存在を発見した。
闇から生まれ出たような、生物…いや、あれが本当に生物なのか、確証はない。
あれはいったい何者か。
心をなくした者たちの、影なのだろうか。
|
---|
|
2 |
城の地下深くにうごめく影たち。
あれは心をなくした者の末路なのか?
あるいは、心の闇が具現化したものか?
それとも、全く異質な存在なのか?
私の知識をもって下手答えは出ない。
確かなのは、あれが一切の感情を持っていないことだけだ。
おそらく彼らの正体や目的が判明すれば、心の謎を解く鍵が見つかるだろう。
さらなる研究を続けねばならない。幸いサンプルの数に不安はない。
彼らは次から次へと発生しているのだ。
彼らの呼称が必要だ。
よろしい。
心なき者…ハートレスと名付けよう。
|
---|
|
3 |
ハートレスは複数で出現し、さらに増殖しているようだ。
数種類のサンプル(生物・無生物)を与えてみると、生物のみに反応した。
ハートレスは生物から何かを吸収して、さらに増殖。
そして対象となった生物は、跡形もなく消失した。
ハートレスは、生物から何を吸収しているのか。
私は彼らが「心」を奪っているのではないかと考えている。
ハートレスは心をなくした者から生まれ、他の生物から心を奪って増殖する。
ハートレスに奪われた心は、新たなハートレスを生み出す糧となる。
確証はないが、私は自説に自信を持っている。
さらに大量の生物を与えて検証しよう。
また、ハートレスの行動原理についても研究を進めなければ。
感情を持たないと思われる彼らだが、知性はあるようだ。
しかしコミュニケーションの方法がわからない。
ふと思う。
あれは私が長年追い求めて出来た心の闇、そのものではないか。
|
---|
|
4 |
ハートレスの行動原理を探るため、1体のハートレスを選び、行動を観察してみた。
しばらく触手を揺らしていたが、やがて目標を感知したのか、城の奥を目指して歩き出した。
やがて城の最深部に到達すると、さらに何かを探すかのように、触手を振動させる。
すると突然、奇妙な扉が出現した。
私の城に、こんなものが隠されていたとは。
扉には大きな鍵穴があったが、鍵がかかっている様子はない。
自ら扉を開いてみた。
…あれはなんだったのか。
扉の奥で見たものは、私の知識を越えていた。
非常に強力なエネルギー体。
その正体はいったい?
この夜、多数の隆盛を観測した。
扉を開いたことと関わりがあるのだろうか。
|
---|
|
5 |
ハートレスが目指した扉の奥には、巨大なエネルギー体が存在した。
おそらく、あれこそがハートレスの最終目的だろう。
その正体は何か?
ハートレスの習性をもとに仮説を立てた。
生物の心を奪うハートレスが求める、非常に巨大なエネルギー体。
あれもまた、ひとつの心…
この世界そのものの心なのではないか。
確証はない。
しかし、あの巨大な力を感じた私は、既に確信している。
あれは世界の心なのだ。
ハートレスたちは、生きとし生ける者の心のみならず、世界の心までも奪おうとしている。
それこそが、ハートレスの真の目的であろう。
だがハートレスたちは、世界の心を奪い取って、何をしようというのか。
|
---|
|
6 |
扉を開いた夜に観測された、無数の流星。
それを構成していたとみられる物質について研究を進めている。
全く未知の物質だ。
弾力性に富んでおり、断片同士を密着させると容易に結合する。
文献を当たってみたものの、このような物質が採取された記録は存在しなかった。
私が扉を開いたことによって、初めて地上に降り注いだということか。
この小さな世界を包む無現の空間には、こうした物質が無数に漂っているのだろうか。
出来ることなら夜空へ飛び立ち、真理を探究したいものだ。
あの天のどこかに、私の知らない世界があるのではないか。
好奇心は強まるばかりだ。
…いや、叶わぬ夢を語るのはよそう。
世界の外に出る方法は、今のところ存在しない。
私も他の者たちも、この小さな世界にとらわれた囚人でしかない。
|
---|
|
7 |
???
|
---|
|
8 |
驚くべき事件が起きた。
外の世界から来訪者があったのだ。
彼はある世界を治める王であり、あの流星の破片(グミブロックと呼ばれているらしい)で作った船に乗ってきた。
私があの扉を開いたことで、彼と私の世界を往来できるようになったようだ。
彼からは実に興味深い話をいくつも聞くことができたが、とりわけ気になるのが「キーブレード」という鍵に関する話だ。
伝説に現れるキーブレードは大きな力を秘めているという。
キーブレードを持つものが世界を救ったとも、逆に世界に混沌をもたらしたとも伝えられている。
キーブレードとは、いったいなんなのか。
鍵…すなわち扉を開く力。
私が開いたあの扉にも、何らかの関係があることは間違いない。
|
---|
|
9 |
人に心があるように、世界もまた心を持つ。
星空に散らばった数多くの世界…そのひとつひとつに、心がある。
それぞれの世界に存在する扉の奥には、その世界の心が隠されているのだ。
ハートレスは、それらの心を求めている。
心の闇から生まれたハートレスが、より大きな心へ回帰しようとしているのではないか。
そうだ。
ハートレスは心から生まれた。闇の故郷、それは心だ。
世界の心の奥底、そこはハートレスの世界なのか。
私にはわからない。
ならば確かめれば良かろう。
そこには必ず答えがある。
私が追い求めた謎…心の謎の。
世界の心に触れたその時、私は全てを知るものとなるであろう。
成すべきことは決まっている。
鍵となるキーブレードを持つ者を探し出し、そしてプリンセスたちを…。
さらに、もうひとつ。
闇に隠された心の謎を探るためには、私の体はもろすぎる。
私は行けねばならない。
この体を振り捨て、さらなる高みへ…闇の奥へ。
|
---|